クルマの駆動系のしくみと計算:変速比・減速比・トルク・車速
公開 2026-11-03
エンジンが生んだ回転は、変速機・プロペラシャフト・デフを通ってタイヤに届きます。途中で「回転数を落とす代わりにトルクを大きくする」のが駆動系の仕事です。この記事では、その流れと計算方法を、トヨタ 86(ZN6・後期 Racing・6MT)の公開諸元を例に説明します。
エンジンからタイヤまでの流れ(FR 車)
FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車では、動力は次の順に伝わります。
- エンジン:燃料を燃やしてクランク軸を回す
- クラッチ:エンジンと変速機をつないだり切ったりする
- 変速機(トランスミッション):ギヤの組み合わせを変えて、回転数とトルクの比を変える
- プロペラシャフト:車体の前にある変速機から、後ろのデフまで回転を運ぶ
- ファイナルギヤ・デファレンシャル(デフ):回転をもう一度落とし、向きを 90° 変え、左右の車輪に分ける
- ドライブシャフト・タイヤ:路面を押して車を進める
4WD 車では、この途中に前後へ動力を分けるトランスファーが入ります。ジムニー(JB23)のようなパートタイム 4WD は 2H・4H・4L を手で切り替え、GR ヤリスは電子制御のカップリングで前後の配分を変えます。
変速比と減速比
変速比は「入る回転数 ÷ 出る回転数」です。変速比が 3.626 なら、変速機に 3,626 回転入ると、出口の軸は 1,000 回転します。回転が遅くなる分、トルク(回す力)は同じ比で大きくなります(損失がない場合)。
デフの中のファイナルギヤも同じ考え方で、この比を最終減速比(ファイナルレシオ)と呼びます。エンジンからタイヤまでの比は、2 つを掛けた総減速比です。
計算の手順
エンジン回転数 Ne[r.p.m.]、エンジントルク Te[N·m]、タイヤ半径 r[m]がわかれば、次の順で計算できます(伝達効率を 1 とした場合)。
| 求めるもの | 式 |
|---|---|
| 車輪の回転数 Nw[r.p.m.] | Ne ÷ 総減速比 |
| 車速 V[km/h] | 2π × r × Nw × 60 ÷ 1000 |
| 車軸トルク Tw[N·m] | Te × 総減速比 × 伝達効率 |
| 駆動力 F[N] | Tw ÷ r |
車速の式は「タイヤが 1 回転で進む距離(2πr)× 1 分間の回転数 × 60 分」を km に直したものです。
計算例:86(後期 Racing・6MT)
トヨタの主要諸元表の変速比(1 速 3.626 ~ 6 速 0.767)と最終減速比 4.300 を使い、エンジン 7,000 r.p.m.・212 N·m、タイヤ半径 0.316 m(205/55R16 の呼び外径の半分)で計算すると、次のようになります。
| 段 | 変速比 | 総減速比 | 車輪回転数 [r.p.m.] | 車速 [km/h] | 車軸トルク [N·m] | 駆動力 [N] |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 速 | 3.626 | 15.592 | 449.0 | 53.5 | 3,305 | 10,460 |
| 2 速 | 2.188 | 9.408 | 744.0 | 88.6 | 1,995 | 6,312 |
| 3 速 | 1.541 | 6.626 | 1,056.4 | 125.8 | 1,405 | 4,445 |
| 4 速 | 1.213 | 5.216 | 1,342.1 | 159.9 | 1,106 | 3,499 |
| 5 速 | 1.000 | 4.300 | 1,627.9 | 193.9 | 912 | 2,885 |
| 6 速 | 0.767 | 3.298 | 2,122.4 | 252.8 | 699 | 2,213 |
理論上の値です。実際の車速は、タイヤの変形(動的半径)やスリップ、速度リミッターなどで変わります。トルク 212 N·m は計算の例として与えた値で、7,000 r.p.m. での実際のトルクではありません。
1 速では車軸トルクがエンジンの約 15.6 倍になり、6 速では約 3.3 倍です。低いギヤで発進しやすく、高いギヤで速く走れる理由が数字でわかります。
動力(パワー)は変わらない
回転数とトルクは入れ替わりますが、その積である動力は、損失がなければどこでも同じです。
エンジンでは 2π × 7,000 × 212 ÷ 60,000 ≒ 155.4 kW、1 速の車軸では 2π × 449.0 × 3,305 ÷ 60,000 ≒ 155.4 kW で、同じになります。実際には、歯車のかみ合いや軸受けで数%ずつ失われるので、シミュレーターでは伝達効率を入れて確かめられます。
デフの役割
曲がるとき、外側のタイヤは内側より長い距離を進みます。左右をただの 1 本の軸でつなぐと、どちらかのタイヤが引きずられてしまいます。デファレンシャル(差動装置)は、左右の回転数の差を許しながら動力を分ける装置です。
- ふつうのデフ(オープンデフ)は、左右にほぼ同じトルクを送ります。片方のタイヤが空転すると、もう片方にも大きなトルクが届かなくなります。
- これを防ぐのが LSD(差動制限装置)です。86 の Racing にはトルセン LSD が付いています。
- デフの中で回転の向きを 90° 変える歯車には、多くの FR 車でハイポイドギヤが使われています。
シミュレーターで確かめる
駆動系シミュレーターでは、変速段・エンジン回転数・トルク・タイヤ半径を変えると、各部の回転数・トルク・動力がすぐに計算され、3D でも回転の様子が見られます。上の表と同じ条件にすると、同じ値が表示されます。
- 86 ZN6(FR):6 段の変速と FR の流れ
- ジムニー JB23(4WD):2H・4H・4L の切り替えと、前後への配分
- GR ヤリス(4WD):4WD のモードと前後の配分
参考
- トヨタ 86 Racing 主要諸元表(2018 年 3 月):変速比・最終減速比・タイヤサイズ
- 計算は本サイトの駆動系シミュレーターと同じ式・同じ入力による